本書は同人誌。要するに、心意気で制作されている。
内容は、戦後新聞小説で、ごく短い文字数で執筆された短編を集成している。
戦前、フランスから岡田三郎が「コント」という概念を日本に導入し、大正から昭和初期にかけて、掌編ブームがあった。
川端康成「掌の小説」が著名だろう。
岡田三郎、武野藤助らは、コントを文壇に展開し、プロレタリア文学は「壁新聞」なるものを開発し、この流れに呼応した。
他方、この「コント」は、ショート・ショートとは似て非なるものであり、日本においては、星新一の登場まで本格的なショート・ショートは受容されることはなかった。
また、コントは、戦前で途絶え、戦後は星新一ほかのショート・ショートに継承されている認識だった。
だが、戦後初期に、コントが一時期復活していたのは驚きであった。
内容は、小説の破片のようなものから、小噺めいたものまで多彩だ。
こうした光があたりにくいものを掘り起こすことは、労力がかかるわりに報われぬ仕事である。
私個人としては、私が執筆した「コントとショート・ショートをめぐる随想」の後継となる本として捉えた。内容も充実しており、近年稀に見る良書である。