木版画、添えられた物語は、稲垣足穂や宮澤賢治、たむらしげるのようなニュアンスをおびながら、さらにそのさきのものを追い求めんとする意識がある。
九編の短編を読んだが、いずれも主人公の孤独が強調されている。そして、見逃せないのは、物語への意志である。
星、夜、砂漠、都市といったさまざまな舞台たてのなかで、孤独とむきあう作家の自意識はどこまでも遠くに羽ばたこうとしている。
あらゆる創作は、先行作品への憧れからはじまり、独自の道を歩いていくことになる。
「旅人の手記」の作者は、まだ、孤独な創作者の道を歩き始めたばかりだ。だが、この作者が今後、うみだすであろう、豊饒な成果に期待したい。