永井荷風の小説「来訪者」のモデルのひとりであり、怪奇小説の翻訳の名手としてしられる、平井呈一とともに、永井荷風の偽短冊色紙を制作、うりとばし、さらには、永井荷風の春本「四畳半襖の下張」流出のきっかけをつくったともくされる、猪場毅は、樋口一葉全集を編み、伊庭心猿名義での句集をもつ文学者である。
現在、制作中の猪場毅作品集は、猪場毅の習作期から晩年にいたるまでの文業を、ひととおりまとめたものとなる。
猪場毅は、優れた編集者であり、佐藤春夫門下であり、佐藤春夫の命により、和歌山滞在時に、「南紀芸術」をたちあげ、編纂し、戦後も「真間」という文藝誌を編集している。
俳人としては、富田木歩の弟子として出発し、死ぬまで俳句にかかわっていた。
永井荷風との一件は、平井呈一の側から語られることが多く、もうひとりの当事者である、猪場毅については比較的語られることはすくなかった。
本作品集刊行により、もうひとりの来訪者に光があたることを期待する